※この記事は現役薬剤師のライターが書いています。
漢方薬はよくわからないけれど、「葛根湯」は知っている!という人は多いのではないでしょうか?漢方薬の中でもお馴染みの処方ですね。
「風邪の引きはじめには葛根湯が効果的」とよく言われますが、「葛根湯」とはどのような漢方薬なのでしょう?
ここでは、「葛根湯」とはどのような漢方薬か?効果効能、効果的な飲み方、副作用や服用時の注意点を解説します。
そもそも「漢方」とは
葛根湯は、漢方薬のひとつですが、そもそも「漢方」とは何か?についてご紹介します。
江戸時代にオランダから入ってきた医学を「蘭方」と呼んだのに対して、それ以前から日本で行われている医学を「漢方」と呼ぶようになったといわれています。
「漢方」の「漢」は、中国の「漢王朝」に由来しており、「漢方」は、中国の医学と思われがちですが、実は、5~6世紀以降に中国の医学が日本に伝わり、その後、日本人の体質や日本の風土、気候に合わせて、日本で独自に発展した医学なのです。
漢方は、体全体の調子を整えて、人間の持つ自然の治癒力を高め、体の不調を治すものです。つまり、症状を引き起こしている体質を改善し、体力や抵抗力を回復させます。
「生薬」と呼ばれる薬としての作用がある植物や動物、鉱物を、漢方医学の考えに基づいて組み合わせて処方され、調合された薬を「漢方薬」といいます。
葛根湯とは?
葛根湯とは、中国医学書の古典、急性の発熱を伴う病気について記された「傷寒論(しょうかんろん)」、慢性の病気について記された「金匱要略(きんきようりゃく)」に収載されている漢方処方のひとつです。
葛根をはじめとする7種類の生薬が配合された漢方薬で、桂枝湯(けいしとう)という漢方処方に葛根と麻黄を加えた処方となっています。特に風邪の引き始めに効果的と評されよく用いられる漢方処方です。
漢方薬は、病気の症状だけでなく、人の体質や状態に合った処方を服用することが大切で、体質に合わないと効果が十分発揮されないだけでなく、副作用が生じる場合もあります。
葛根湯は、比較的守備範囲が広いとされていますが、ある程度体力のある人に向いている処方です。そのため、風邪の引きはじめにはどんな人にでも葛根湯が良いかというとそうではなく、体質的に適しない人は、他の漢方薬を選ぶ必要があります。
葛根湯は、体を温めて発汗を促し、熱を下げる作用があります。
風邪を引くと、人間の体内では、体温を上げ免疫機能の働きを活発にし、ウイルスや細菌をやっつけます。葛根湯は、この体を温め、体温上昇を助け、ウイルスや細菌の体外への排出を促し、その後発汗を促して熱を下げる働きをします。
その他、葛根湯と同様に寒気を伴う風邪の初期に使用される漢方薬としては、体力のある人や子どもには「麻黄湯(まおうとう)」、体力が無く、胃腸も弱っている人には「桂枝湯(けいしとう)」があります。
葛根湯の構成成分・生薬
葛根湯は、「葛根(かっこん)」、「大棗(たいそう)」、「麻黄(まおう)」、「甘草(かんぞう)」、「桂皮(けいひ)」、「芍薬(しゃくやく)」、「生姜(しょうきょう)」の7種の生薬で構成される漢方薬です。
それぞれの生薬の特徴をご紹介します。
<葛根>
葛根は、マメ科クズの根を乾燥したもので、発汗を促し、解熱、鎮痛、筋肉のこわばりを和らげる作用があります。日本では古くからクズの根のでんぷんに砂糖を加えた「葛湯(くずゆ)」を風邪の引き始めに飲んだりしていて、日本人にとっては馴染みが深いですね。
<大棗>
大棗はクロウメモドキ科のナツメの実で、胃腸の働きを整えたり、筋肉の緊張による痛みや腹痛を和らげる作用があります。また、精神を安定させる作用もあります。
ナツメの実は料理の食材としても用いられることがあります。
<麻黄>
麻黄は、マオウ科のマオウなどの地上茎を乾燥したもので、発汗を促し、咳止め、気管支のけいれんを抑えるなどの作用があります。
マオウに含まれるエフェドリンという成分には、中枢神経や交感神経を刺激する作用があります。
<甘草>
甘草は、マメ科の多年草である甘草の根茎や根を乾燥したもので、痛みや緊張を和らげる作用があります。
甘草には抗炎症作用のある「グリチルリチン酸」という成分が含まれています。
<桂皮>
桂皮は、クスノキ科のトンキンニッケイなどの樹皮を乾燥したもので、発汗を促し、解熱、鎮痛、健胃などの作用があります。
桂皮は「シナモン」としても有名です。
<芍薬>
芍薬は、ボタン科のシャクヤクの根を乾燥させてもので、血行をよくする作用や筋肉のけいれんを和らげる作用があります。
<生姜>
生姜は、ショウガ科のショウガの根茎で、体を温めて、発汗を促し、健胃などの作用があります。風邪を引いたら生姜湯を飲んで体を温めますね。普段でも生姜はさまざまな料理の食材としても用いられています。
葛根湯のメインは「葛根」と「麻黄」で、「桂皮」が「麻黄」の作用を高める働きをし、「芍薬」は「葛根」や「麻黄」の発汗作用が強く出過ぎないよう調節します。そして、これらの作用を「大棗」「甘草」「生姜」が調節する役割をして葛根湯としての効果を発揮しています。
葛根湯の効果効能4つ
葛根湯は、風邪薬というイメージですが、風邪以外の症状にも効果があります。
葛根湯の効果効能についてご紹介します。
■①風邪への効果
風邪の初期症状には「葛根湯」といわれるほど、有名ですが、すべての人の風邪の初期症状に効果的というわけではありませんので注意が必要です。
葛根湯が効果的なのは、次のような症状、状態の場合です。
比較的体力がある状態で、ゾクゾクとする悪寒や発熱があるけれど発汗はない、風邪の初期症状が見られる、肩や首のこりやこわばりがある状態です。
同じ風邪の初期症状が見られている場合でも、体力がなく胃腸が弱いタイプの人やすでに発汗がある場合には葛根湯は適していません。その場合は、他の適した漢方薬を選びましょう。
■②頭痛、首や肩のこり、筋肉痛への効果
筋肉の緊張により生じる頭痛や首、肩のこりにも効果的です。
体を温める作用により血液の循環がよくなり、筋肉のこりやこわばりがほぐされます。
■③蕁麻疹への効果
葛根湯は、蕁麻疹の改善にも効果的です。
葛根湯の薬効を調べる試験(動物による試験)で抗アレルギー作用が認められています。
■④扁桃炎、中耳炎、乳腺炎などへの効果
葛根湯は、急性の炎症性の疾患に対しても効果があります。発症1~2日に使用するのが適しているといわれています。葛根湯には、炎症を抑える作用があることが基礎研究で確認されています。
このように葛根湯はさまざまな症状の改善に効果があります。
落語で頭痛の人、腹痛の人、足痛の人、目が悪い人、しまいには付き添いで来た人にまで葛根湯を出す「葛根湯医者」という話があるほどです。葛根湯は古くからさまざまな症状の改善に効果があり、使用されてきたことがわかります。
葛根湯の飲み方とタイミング
葛根湯だけでなく漢方薬は一般的に、食前(食事の30分前)または、食間(食後2時間後)といった空腹時に服用するのが効果的です。
空腹時に服用することにより、薬の成分が吸収されやすくなります。また、一部のアルカロイドと呼ばれる作用の強い成分に対しては吸収を穏やかにし、副作用を出にくくするといわれています。
ただし、食後に服用しても著しく効果が落ちる、極端に副作用が出やすくなるというわけではありませんので、食前や食間に飲み忘れてしまったら、食後に気づいたらそのときに服用しましょう。
また、風邪の改善に使用する場合、服用の際、顆粒剤の場合は、温かい白湯に溶かして服用すると効果的です。液剤の場合は、冷やさず常温のまま服用するのがよいでしょう。
風邪に対して葛根湯を効果的に使用するには、服用タイミングも重要です。
ゾクゾクとした悪寒がする、筋肉や関節が痛む、さらさらした鼻水が出るなどの風邪の初期の段階で服用すると葛根湯の効果が発揮されます。
葛根湯の副作用
漢方薬は、体質にあったものを使用する場合は、ほとんど副作用が見られないが、体質に合っていない場合は、副作用が出てしまうことがあるといわれています。
葛根湯の副作用としては、発赤や発疹、かゆみ、食欲の低下、胃部不快感、吐き気などが見られることがあります。
葛根湯が体質的に向いていない体力がなく胃腸が弱い、発汗が多い人が服用すると、倦怠感など副作用が出やすい可能性があります。
また、麻黄が含まれていますので、麻黄の成分の中枢神経や交感神経の興奮作用により、服用後に発汗し過ぎたり、不眠、動悸、頻脈、血圧上昇などの症状が見られる場合があります。心臓疾患や甲状腺疾患などがある場合は注意が必要です。
さらに、甘草に含まれるグリチルリチンは、血液中のカリウムの量が少なくなったり、むくみや血圧上昇などが起こる「偽アルドステロン症」を引き起こす場合があります。甘草を含む漢方薬を飲み始めて2~3週間で「偽アルドステロン症」が現れることが多いといわれていますので、服用中はむくみの有無などに注意が必要です。
服用後、気になる症状がみられたら、早期に医師の診察を受けましょう。
葛根湯の飲み合わせの注意点
葛根湯と他の薬を一緒に服用する際、注意しなければいけない場合があります。
■<成分にエフェドリンを含む薬との飲み合わせ:咳止め薬、風邪薬>
市販の風邪薬の中には、咳止め成分として、エフェドリンを含むものがあります。
エフェドリンは、葛根湯に配合されている麻黄に含まれる成分であるため、葛根湯とエフェドリンを含む薬を併用することにより、エフェドリンの作用が強く出すぎてしまい、不眠や動悸、頻脈などの副作用がでやすくなります。
その他、処方薬の中でもテオフィリンなどエフェドリンと同様の作用を示す薬との併用にも効果が強く出すぎる場合がありますので、併用は避けるようにしましょう。
さらに、他の漢方薬を併用する際も麻黄が重複して服用量が多くなると副作用を起こすリスクが高くなりますので、注意が必要です。
併用を考える場合は、かかりつけの医師や薬剤師に事前に相談しましょう。
■<成分にグリチルリチン酸を含む薬との飲み合わせ:肝臓の働きを良くする薬、炎症を抑える薬など>
甘草に含まれる成分であるグリチルリチン酸は、「偽アルドステロン症」を引き起こす場合があることは、副作用の項でご紹介しました。
グリチルリチン酸を成分として含有する薬との併用は、「偽アルドステロン症」を引き起こすリスクがより高くなりますので注意が必要です。
また、甘草は、多くの漢方処方に用いられているため、葛根湯と他の漢方薬を併用する際は、甘草の服用量に十分注意が必要です。
併用を考える場合は、かかりつけの医師や薬剤師に事前に相談しましょう。
■<ループ利尿薬、チアジド系利尿薬との飲み合わせ>
病院で処方されるループ利尿薬やチアジド系利尿薬など利尿を促す薬の中には、血液中のカリウムの量を低下させる作用のある薬があります。
これらの利尿薬と葛根湯との併用は、利尿薬によるカリウムの排泄作用と葛根湯に含まれる甘草によるカリウム排泄作用が重なり、偽アルドステロン症(低カリウム血症)を引き起こしやすくなるため注意が必要です。
■<解熱鎮痛薬との飲み合わせ>
一般的にロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)やイブ(一般名:イブプロフェン)などの解熱鎮痛薬と葛根湯の併用は問題ないといわれていますが、それぞれの作用の仕方を考えてみると、葛根湯は、まず体温(熱)を上げて体内の免疫機能を活発にし、ウイルスや細菌をやっつけたのち、汗を出して熱を下げ風邪を治す働きをします。
一方、解熱鎮痛薬は、体内で体温を上げるように働く物質が作られるのを抑え、熱を下げる作用があります。
そのため、解熱鎮痛薬と葛根湯の併用は、結果として葛根湯の効果が十分に発揮されない可能性も考えられ、飲み合わせとしては好ましくない場合があります。
また、すでに、熱が高い場合や汗をかいている場合は、葛根湯の十分な効果が期待できないため、解熱鎮痛剤を服用する方が適しています。
妊娠・授乳中の人は葛根湯を飲んで大丈夫?
漢方薬であれば、妊娠中も大丈夫と思いがちですが、生薬の中にも妊娠中は、禁忌(使用してはいけない)とされているものや使用には注意しなければいけないものもあります。葛根湯には、妊娠中の使用には注意しなければいけない「麻黄」が含まれています。
そのため、妊娠中の使用については、かかりつけの医師と十分相談して使用するようにしましょう。
また、授乳中の使用に関しては、急性乳腺炎にも葛根湯は処方されることがあり、一般的には問題ないといわれていますが、「麻黄」の含まれる漢方薬の授乳中の使用には、少し注意したほうが良いとの報告もあるため、服用中は乳児の状態に注意しましょう。授乳中に使用を考える場合もかかりつけの医師に相談の上、処方してもらうことをおすすめします。
葛根湯の種類4つ
漢方薬は、それぞれの処方ごとに使用される生薬の量が「日本薬局方」という医薬品の規格基準書によって決まっています。
この「日本薬局方」に定められている「葛根湯」には、使用する生薬の分量が少しずつ異なる4種類の処方があります。
①葛根8g、麻黄4g、大棗4g、桂皮3g、芍薬3g、甘草2g、生姜1g
②葛根4g、麻黄4g、大棗3g、桂皮2g、芍薬2g、甘草2g、生姜1g
③葛根4g、麻黄3g、大棗3g、桂皮2g、芍薬2g、甘草2g、生姜1g
④葛根4g、麻黄3g、大棗3g、桂皮2g、芍薬2g、甘草2g、生姜2g
(第十七改正日本薬局方 医薬品各条より)
「葛根湯」の製剤でも製薬会社によって成分分量が異なるものがあるのはこのためです。
■満量処方とは?葛根湯の場合の注意点
市販の漢方薬のパッケージに「満量処方」と記載されているものがありますが、「満量処方」とは何なのでしょうか?
一般用医薬品(市販薬)の漢方薬は、医療用医薬品(処方薬)に比べそれぞれの生薬の成分含有量が少ない製品が多かったのですが、最近は、医療用医薬品と同じ量を含有する「満量処方」が増えています。つまり、1日量として定められた最大量を使用したものを「満量処方」といいます。
市販されている漢方薬には、「満量処方」の他、抽出したエキスの3/4だけ使用した「3/4処方」、半分使用した「1/2処方」など成分含有量の違う製剤があります。「成分・分量」のところに記載されています。
しかし、葛根湯の場合は、もともとの処方パターンが4種類あるため、この「満量処方」、「3/4処方」という表現だけでは、生薬の分量が多い、少ないとは判断できません。
使用している処方パターンによっては、「満量処方」よりも「3/4処方」の方が使われている生薬の量が多かったりする場合もあります。そのため、比較する際は、成分量を確認したほうがよいですね。
ただし、漢方薬では、生薬の分量が多い処方が良いとは限らず、体質や症状、季節などによって適するものが異なってきます。症状や体質に合わせて選ぶとよいでしょう。
葛根湯の製剤の種類3つ
市販されている葛根湯の製剤には、顆粒タイプ、錠剤タイプ、液剤タイプが市販されています。それぞれの特徴をご紹介します。
■<葛根湯の種類その1:顆粒タイプ>
顆粒タイプは、温かいお湯に溶いて服用できるので、葛根湯を効果的に使用できます。
ただ、漢方薬の独特の匂いや味が気になる人には服用しずらいと感じるかもしれません。
市販薬としては、下記などの商品があります。
■<葛根湯の種類その2:錠剤タイプ>
錠剤タイプは、漢方薬の匂いや味をあまり気にせず服用可能です。
最終的な効果に違いはありませんが、顆粒剤や液剤に比べると、体内への吸収に時間がかかります。
市販薬としては、下記などの商品があります。
■<葛根湯の種類その3:内服液タイプ>
液体タイプは、他の剤形に比べて効果が一番早く出ます。
水なしで飲めるのも利点です。服用時は、冷やさず常温で服用するのがおすすめです。
漢方薬独特の匂いや味が苦手な人には飲みにくいかもしれません。
市販薬としては、下記などの商品があります。
まとめ
葛根湯は風邪の引き始めだけでなく、肩こりや筋肉痛などによる痛みや蕁麻疹の緩和、急性の炎症を抑えるなどの効果が期待できます。
ただし、葛根湯など漢方薬は、症状だけでなく体質にも合ったものを使用することが重要です。同じような症状であっても体質的に合っていなければ、効果が十分に発揮されず、副作用を起こすこともあります。
ご自身の体質がわからない場合は、漢方専門医や漢方薬局の薬剤師にご相談ください。
薬剤師をしています。ヘルスケア分野の情報をわかりやすく説明します。