「アモーレ」が流行語にもなったサッカー日本代表のキーパーソン、長友佑都選手。代表はもちろん、ハイレベルなイタリアのプロリーグで活躍を続けている秘密は、鍛え上げられた体幹にありました。
体幹トレーニングのメリットや、長友流メニューをご紹介しましょう。
長友佑都選手とは
長友佑都(ながとも・ゆうと)選手は1986年生まれ。既にベテランの域にさしかかりましたが、サッカー日本代表にとって欠かせない不動の左サイドバックです。2011年からはイタリアの強豪インテル・ミラノでプレーしています。
170cm65kgとさほどサイズに恵まれておらず、椎間板ヘルニアのケガもあって、明治大学までは決して特別に目立つ選手ではありませんでした。
しかし、椎間板ヘルニアのケアとして始めた体幹トレーニングによって急成長。06年以降はユニバーシアード代表、FC東京入り、日本代表デビューとめざましくステップアップしていきます。10年からはイタリアでプレー。大柄で屈強な外国人選手たちと互角以上に渡り合い、6シーズン通算172試合出場を果たしている源は、やはり鍛え上げられた体幹の強さだと言えるでしょう。
長友選手は自ら『長友佑都体幹トレーニング20』という著書も出しています。トレーニング界に体幹の重要性を再認識させてくれた、長友選手の鍛練法をチェックしていきましょう。
体幹とは
そもそも「体幹」とは身体のどの部分を指すのでしょう? 漠然と腹筋や背筋をイメージしている方も少なくないと思いますが、実は体幹とは身体の広い部分を指す言葉なのです。
■◯骨盤、背骨、肋骨、肩甲骨
文字通り身体の「幹」となる部分の骨は体幹に含まれます。頭蓋骨や手足の骨は「枝葉」として扱うことができるので、体幹には含みません。
■◯腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群
内臓をおさめている腹腔を取り囲む筋肉群も体幹のひとつです。いずれもインナーマッスルと呼ばれる深い位置にある筋肉です。腹腔には背骨の骨がないので、腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群が押さえつけるように内臓を守り、腹圧を高めることによって背骨を支えています。
■◯胸郭、骨盤、背骨、その中の臓器と取り囲む筋肉すべて
アスレティックトレーニングではなく、ピラティスの定義する体幹です。ピラティスとは、リハビリにヨガの考え方を取り入れた健康法。心身両面から身体を整えることを目的としています。ピラティスでは体幹の一部である心臓などの臓器や筋肉が、正しい位置におさまることで初めて健康になれると考えています。
腹筋、背筋だけでなく胴体全般の広い部位を鍛え、正しい姿勢をとることで身体の歪みや臓器の位置の乱れを整えていくことも体幹トレーニングなのです。
体幹を鍛えて得られる3つの効果
体幹のトレーニングによって得られる効果は主に3つあります。
■1. スポーツのパフォーマンスが向上する
二の腕の上腕二頭筋、太ももの大腿四頭筋といったよく知られた筋肉に比べ、体幹の筋肉ひとつひとつはさほど大きなパワーを生み出すことができません。しかし、筋肉や骨、関節の動きをサポートするという重要な役割を持っているのです。
体幹を鍛えることで、投げる、走る、ひねる、身体を前に倒す、足をひきつけるといったスポーツにおけるあらゆる動作がなめらかに、強く、正確になります。サッカーだけでなく、あらゆる競技、種目に役立ってくれるのです。
長友選手は外国人選手の激しいボディコンタクトを受けても、簡単には倒れません。卓越したバランス感覚も体幹トレーニングの成果。プレー中、予想外の方向から激しいショックを受けたとしても、倒れたり体勢を崩すことなく続けることができるようになるのです。
■2. 姿勢を維持する
運動や日常的な動きだけでなく、体幹は座っている時や立っている時にも常に機能しています(部位によっては寝ている時でさえ活動しています)。
脊柱起立筋や腹直筋は「抗重力筋」とも呼ばれており、背骨を保持し、重力に対して垂直に身体を維持するよう働いているからです。外腹斜筋、内腹斜筋、腰方形筋といった筋肉もこれと連動し、姿勢保持だけでなく上半身と下半身をつなぐ役割を果たしているのです。
日頃から体幹を鍛えていると、ただ立っているだけでなく、すらりとして背骨に一本芯の通ったような美しい立ち姿になります。座っていても背すじが伸びて、折り目正しい姿に。モデルやアイドルなど日頃から他人の視線にさらされる職業の人々は、体幹トレーニングにとても力を入れているのです。
華やかな職業だけではありません。営業や接客でもしゃんとした姿勢は大切ですね。立ち姿や身のこなしだけで相手の受ける印象は大きく変わってきます。体幹トレーニングによって張りのある大きな声も出せるようになるので、さらに明朗な印象を与えることができます。体幹トレーニングが仕事の成功をもたらしてくれるかもしれません。
女性にとってはバストアップ、ヒップアップにつながるという、うれしいメリットもあります。
■3. 内臓を正しい位置に戻し、体調を整える
体幹が弱まっていると、猫背になったり、下腹がぽっこり突き出してしまいます。これは骨盤が前傾や後傾している証拠です。本来なら体幹の力で支えられているはずの骨盤が、前後にズレてしまうのです。
前後だけでなく左右のバランスも崩れてしまいます。足を組んで座ったり、片方の足を突き出すように立つ姿勢は、自分では格好よく見せているつもりでも、実は体幹が弱いサインかもしれないのです。身体のバランスが崩れると様々な悪影響が生じます。
まず、胃腸や腎臓、膀胱、子宮といった内臓が本来とは違う位置にズレ、下垂してしまうため、消化不良、胃もたれ、便秘、生理痛、生理不順、頻尿、倦怠感といった症状を引き起こすのです。骨の位置もズレていますから、腰痛、肩こりを招いてしまいます。
内臓の機能が落ちることで血液の循環も滞り、冷えやむくみ、しびれも起こってきます。こんな時は体幹トレーニングで歪んでしまった骨や筋肉の位置を正しい位置に戻してあげましょう。人間の身体は常にバランスをとろうとしていますから、体幹がしっかりしてくれば、内臓や骨も自然と本来の位置に戻ってくれるのです。
骨や筋肉に不必要な負荷がかからなくなると痛みも解消されていきます。血流も改善されるので、冷えやむくみも徐々に軽減されていきますよ。
体幹は立つ、座る、寝るといった日常のあらゆる動作にかかわっているので、トレーニングで持久力がアップすれば、疲れにくい身体になれるのです。
体幹トレーニングはダイエットにも効果的?
「体幹ダイエット」といった大げさな名前はつけられませんが、体幹トレーニングをダイエットに取り入れることもできます。
筋肉量が増えると基礎代謝がアップするので、消費カロリーも増加します。これまでと同じ量、同じメニューの食事を摂っても、消費カロリーが増えた分、脂肪に変わりにくくなります。痩せやすい身体になるのです。
より効率的に脂肪を落とすなら有酸素運動が一番。ウォーキングする時、背すじを伸ばして胸を張り、腹式呼吸で歩くように心がけると体幹のトレーニングにもなりますよ。
長友佑都選手おすすめの体幹トレーニングメニュー3つ
長友選手が実際に行っているトレーニングメニューの中から、スポーツ経験のない方でも体幹強化に役立てるものを3つピックアップしてみました。
ウォーキングやジョギングなど有酸素運動と併用する方は、有酸素運動の前にこれらのメニューを済ませておきましょう。
■1. 水平クランチ
長友選手のトレーニングメニューを眺めてみると、どれもオーソドックスなものばかりで、彼ならでは、サッカーならではと呼べるような要素は見当たりません。しかし、どれも単純でありながらハード。その典型例である水平クランチをまずご紹介しましょう。
両足と上体を持ち上げる腹筋トレーニングです。見た目のシンプルさとうらはら、腹直筋を中心に体幹をしっかり鍛えることができます。
・まず、あおむけに横になりましょう。両膝は90度に曲げます。両腕は手のひらを下にして身体の脇に置きましょう。
・このままゆっくり息を吐きながら両足と、肩甲骨から上、両腕を持ち上げます。膝は90度をキープします。持ち上げたら3秒間姿勢を維持。再びゆっくり戻します。腹筋運動のように何回も回数をこなすのではなく、上げきったところで一度静止するのが筋肉への刺激を強くするポイントです。
腹筋に意識を集めて固める一方、背筋は緩めておくのがコツ。固める部位、緩める部位の使い分けは、長友選手も体幹トレーニングで意識しているポイントです。
初心者は5回から。慣れてきたら10回、15回と回数を増やしていきます。
■2. バックキック
腹側を鍛えた後は、背筋とお尻の筋肉を攻めるバックキックに挑戦してみましょう。
・四つん這いになり、両肘をつきます。手は肩幅ほどにひらきます。
・片足をゆっくり後方に伸ばします。伸ばし切ったら足、背中、頭まで一直線になるように姿勢をキープします。最も効かせたいポイントである大臀筋に意識を集めましょう。
・床につく手前まで足を戻し、また後ろに踏み出します。
・初心者は左右5秒ずつ3セットから。以降、10秒、20秒と徐々に時間を増やしていきます。
ポイントは足を勢いよく蹴りださないこと。足ではなく体幹のトレーニングなので、姿勢を維持することに意識を配ります。また、肘が曲がって前傾してしまうと、大臀筋への負荷が下がってしまうので注意しましょう。
1セットが終わるまで、1回ずつ膝を床につけないことも大切。床につくギリギリ手前で止めることで、より負荷を与えることができるのです。
ウエイトを使わず、うつぶせになれるスペースさえあればできるため、ヒップアップを目指す女性にもうってつけのメニューです。
■3. サイドブリッジ
上の2つと異なり、脇腹の筋肉主体に攻めていくメニューです。
・横向きになって床に寝ます。
・腕を立てて身体を起こします。慣れていない方は肘から先を床につけて、長友選手と同じなら手のひらだけをつけて腕を伸ばします。
・腰が落ちず、状態から足先までが一直線になるように姿勢をキープします。この時、腹筋に力を入れて固めておきましょう。
上側の腕は腰にあてるか、真上に伸ばします。左右の向きでそれぞれ8~10秒×5回が最初のめやすです。慣れてきたら徐々に秒数を増やしていきましょう。
■その他のメニュー
こちらの本(DVD付き)に、長友選手おすすめの体幹トレーニングが20種類紹介されています。
さらにストレッチ法やトレーニングメニューなども解説されています。
まとめ
・10代の頃、あまり目立たない長友選手がブレイクできたのは体幹トレーニングのたまものです。
・体幹トレーニングには、バランス感覚をアップさせる、スポーツのあらゆる動きを向上させる、疲れにくい身体を作る、美しい姿勢を生み出すといった様々な効果があります。ダイエットにも役立ってくれます。
・長友選手の練習メニューは決して奇抜なものではありません。もも上げクランチなど地味でキツいメニューを粘り強く続けていくことが最も大切です。
トレーナーとして活動しています。ダイエットやトレーニング方法についてお伝えします。