「世界一受けたい授業」減量外来ドクター。「ホンマでっか!?TV」肥満治療評論家・漢方治療評論家。その他、テレビや雑誌で多数出演・監修。
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最近では腸活という言葉も生まれているほど腸が健康にとって大事だということが知られてきました。腸内のバランスを良くすることがどれほど健康に良いかを見ていきましょう。
きれいな腸とはどんな状態?
みなさんは、腸内フローラという言葉を知っていますか。腸内細菌叢とも言います。フローラとはお花畑という意味です。これは腸内にいる600兆もの細菌を顕微鏡で見るとお花畑のように見えたことからそのように呼ばれるようになりました。ここで言うきれいな腸とは、腸内フローラの構成比率が、善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7であることを言います。
善玉菌、悪玉菌といった言葉は広く知られていますね。善玉菌とはヒトの体に有用な働きを持つ菌のことを言い、ビタミンの合成、消化吸収の補助や感染防御、免疫を刺激したりします。悪玉菌は腸の内容物を腐らせたり、最近毒素を産生したり、発がん物質を産生したりとヒトに悪影響を及ぼす菌のことです。
善玉菌、悪玉菌の他に日和見菌がいます。日和見菌は健康なときには生体内で害になることはしないのですが、免疫が低下するなどの体に異常があるときに腸内で害になる働きをする菌のことを言います。
善玉菌にはビフィズス菌、乳酸菌、フェカリス菌、アシドフィルス菌などが代表的です。
悪玉菌はウェルシュ菌などのクロストリジウム属、ブドウ球菌、ベイヨネラなどが該当します。大腸菌には有毒株と無毒株が存在していて、有毒株は病原性大腸菌O-157が有名で、悪玉菌に該当します。腸内には善玉菌、悪玉菌のほかに日和見菌と呼ばれる菌が存在します。
日和見菌は大腸菌(無毒株)、バクテロイデス、連鎖球菌が代表的な菌です。
■腸内フローラの構成比率は年齢で変化する?
先ほど腸内フローラの構成比率について説明しましたが、この比率は年齢によって変化していきます。一般的な腸内フローラの定着から年齢を重ねるにつれて変化していく流れは以下のようになります。
<胎児〜出生直後>
胎内では基本的に無菌の状態で過ごし、出生後初めて排泄される胎便には細菌は含まれていませんが、出生後数時間のうちには腸内に細菌が定着を始めます。一時的に環境由来の好気性菌が出現した後、まず定着するのは大腸菌や腸球菌です。これらは通性嫌気性菌という酸素の存在の有無にかかわらず発育できる菌群です。
<生後3日目頃>
生後3日目頃には環境中に酸素があると生育できない偏性嫌気性菌(ビフィドバクテリウムやバクテロイデス、クロストリジウムなど)が登場し、なかでもビフィドバクテリウムが急速にその菌数を増やします。そしてビフィドバクテリウムが乳児の腸内で重要な位置を占めるようになります。
<生後数日〜1週間>
ビフィドバクテリウムは生後数日から1週間ほどで菌数が1010~1011/gに達し、 離乳までの間は腸内細菌叢の大半を占有する最優勢菌となります。出生直後に最優勢であった通性嫌気性菌群はビフィドバクテリウムと入れ替わるように菌数が減少し、その1/100以下の低い菌数で安定します。
<離乳期>
離乳期になると腸内細菌叢も大人の構成へと変化していきます。ビフィドバクテリウムはやや減少し、優勢菌ではあるものの最も数が多い菌群というわけではなくなります。その菌種も、ビフィドバクテリウム・ブレヴェやビフィドバクテリウム・インファンティスなどの乳児に多いものから、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスなどの成人型の菌種に移行します。
<成人>
優勢菌叢を構成するのはバクテロイデスをはじめとしたクロストリジウム、ユウバクテリウム、ビフィドバクテリウムなどの偏性嫌気性菌群で、通性嫌気性菌群は嫌気性菌群よりも低い菌数で安定した成人型の腸内細菌叢が形成されます。
<成人以降>
腸内フローラの構成は、やがて加齢とともに老人型となっていきます。ビフィドバクテリウムは減少し、人によっては検出されなくなる場合もあります。そして総菌数もやや減少します。加齢とともに増加するのはウェルシュ菌や大腸菌のようないわゆる腸内腐敗のもととなる菌群です。
これまでにいくつもの疫学的な研究によると、これらの菌群の増殖を抑えてビフィドバクテリウムが優勢な菌叢を保つことが、老化を防ぎ健康を維持するのに重要であることを示唆しています。
腸をきれいに改善して得られる5つの効果
■①免疫賦活化作用とアレルギー抑制効果
プロバイオティクス乳酸菌は腸管内において腸管免疫系や全身免疫系に影響を及ぼすことが数多く報告されています。腸管内には膨大な数の免疫細胞が存在しています。最大のリンパ組織である腸管関連リンパ組織(GALT)では病原菌に対しては積極的な排除機能が働き、病原菌は排除されます。
一方、プロバイオティクス乳酸菌や非病原菌はGALTを形成するリンパ組織の一つであるパイエル板上のM細胞により体内に取り込まれ、M細胞の下部に存在する樹状細胞により捕らえられます。樹状細胞には微生物の分子パターンを認識するToll様受容体(TLR)と呼ばれるレセプターが存在し、主としてこのTLRの働きによって様々な免疫応答を行っています。
また、私たちの生活環境が衛生的になってきたことも一因とされているアレルギーは増加の一途をたどっています。アレルギーは免疫系のTh1とTh2細胞応答のバランスが崩れてTh2細胞応答が優位の状態になったときに起こると説明されています。花粉アレルギー、食品アレルギーそれにアトピー性皮膚炎はアレルギー症状の代表的なものとしてよく知られており、プロバイオティクスを用いたはっ酵乳を長期間摂取することによりアトピー性皮膚炎や血中IgEが低下することなどが多くの臨床試験から明らかにされています。
その他、IgA産生の応答増進、細胞障害活性の亢進などプロバイオティクスのアレルギー抑制作用に結びつく知見も報告されています。
■②下痢改善効果
下痢の原因として、大腸における異常な運動性の亢進、ウイルスや病原菌による感染、それに電解質や水分の異常な輸送などがあげられます。栄養不良や抗生物質投与による下痢症さらには小児下痢症などに対して乳酸菌が優れた改善効果を有していることは古くから知られています。
乳酸菌が生成する乳酸や酢酸などの有機酸によって腸管内のpHを下げ、病原菌や腐敗物質生産菌の増殖を抑えることによって改善効果が発揮されると考えられています。
■③腸疾患の改善
腸炎などの疾患を改善させる治療に糞便移植療法というものがあります。これは正常な腸内細菌叢をもつ健常者の糞便を生理食塩水で溶解し、フィルターでろ過して不要物を除いた抽出液を腸内へ注入することにより腸内細菌叢を正常にすることで腸炎を改善させる治療法です。
この治療法は再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症や、クローン病や潰瘍性大腸炎などの難治性炎症性腸疾患などに対して欧米で研究されています。日本では現在のところ保険適応外ですが、実施している施設はあります。
■④肥満改善
2014年にサイエンス誌で発表された実験によると、肥満の人と痩せた人の便から採取された腸内細菌を無菌状態の双子マウスに移植して同じ餌を与えた結果、肥満の人から採取した腸内細菌を移植したマウスの方が、痩せた人の腸内細菌を移植したマウスより体重が増加しました。同じ食事を与えているので、腸内細菌により代謝に影響を与えられているのではないかと考えられます。
そして、肥満の人の腸内細菌叢は多様性がなく偏りがあるという報告がありますので、腸内環境を正常化することが肥満の改善につながるのではと考えられています。
■⑤美肌効果
腸内細菌はビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンKといったビタミンを作りだしてくれます。この中でもビタミンB2とビタミンB6は、主に皮膚や粘膜の健康維持を助ける働きをするビタミンで、糖質、脂質、たんぱく質を体内でエネルギーにするなどの代謝を支える重要な働きをしています。腸内環境を正常化することで肌荒れが改善すると考えられます。
腸をきれいに改善する10の方法
腸をきれいにするにはライフスタイルの見直しが重要です。ここではもう少し具体的にどうすればよいかを見ていきましょう。
■①水分を摂る
体内の水分量が少ない状態だと便の水分量が少なく、硬くなり便秘になりやすいです。
食品中にも水分が含まれるので無理なダイエットをすると水分不足となりやすいため水分を取る必要があります。
■②運動する
男性・女性を比較して便秘になりやすいのは女性ですが筋肉量が少ないのが影響しています。高齢者の方も筋肉量が落ちますので便秘になる方が増えてきます。
腸腰筋を鍛えることで蠕動運動を促すことになりますので、スムーズな排便に繋がります。
■③便意を我慢しない
便意を我慢する癖をつけていると、排便するタイミングを逃し、便が腸内に留まることが多くなります。便が腸内に留まり続けると便の中に存在する水分が腸によって吸収されます。
そして便が硬くなり、便秘になる要因になります。
■④よく寝る
睡眠中は副交感神経が優位になっており、その時には腸の活動は活発となっています。
食物を消化・吸収して便にするのに睡眠は不可欠です。
睡眠不足となると腸の働きが悪くなるため消化不良や下痢に繋がります。
■⑤食物繊維を摂る
食物繊維には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維があります。
不溶性食物繊維の特長として、保水性が高く、便の嵩を増やす効果があります。水溶性食物繊維の特長として、粘性があるので、胃の中をゆっくり移動するため空腹になりにくくして食べ過ぎを防ぎ、糖の吸収を緩やかにするため食後血糖を上げにくくする効果があります。そしてどちらも腸内環境を整えてくれる働きがあり、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維の両方をバランスよく摂取するのが腸内環境改善には良いと考えられています。
■⑥ヨーグルト、納豆を食べる
ヨーグルトや納豆などの発酵食品は腸内環境を整えてくれる役割があります。これについては後述します。
■⑦過度な飲酒は避ける
過度なアルコール摂取を続けることで、腸内環境が悪化するという研究結果があります。
“アルコール依存症患者16人と健常者48人の糞便の菌叢構造を比較した結果、アルコール依存症患者の便では、偏性嫌気性菌が減少し、通性嫌気性菌が増加していた。”
先ほども説明しましたが、偏性嫌気性菌には、腸内フローラを構成する主な腸内細菌であるビフィズス菌、バクテロイデス、ユーバクテリウム、クロストリジウムなどが含まれます。これに対し、通性嫌気性菌には、乳酸桿菌、大腸菌、腸球菌などがあります。
■⑧無理なダイエットはしない
無理なダイエットをすることでタンパク質や食物繊維などの必要な栄養素が不足します。そうなると筋肉量の低下や腸の蠕動運動が起こりにくくなるため便通が悪くなります。便が腸内に留まる時間が長ければ長いほど便が硬くなり、その状態が続くと腸閉塞のリスクが上がります。
■⑨ストレスを溜め込まない
ストレスを感じると、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが分泌されます。コルチゾールの働きは体内には必要なものですが、分泌が慢性的に続くと、不眠や生活習慣病に関わってきます。運動をすることや趣味に熱中することがストレス解消につながりますので、何かしら興味があるものを探してみると良いと思います。
■⑩どうしても無理なら薬の力を借りる
便秘・下痢がライフスタイルを変えても改善しないときは薬の力を借りることになります。
便が硬すぎる状態になってしまっていると、排便時に痛みを伴ったり、場合によっては肛門が切れてしまったりします。腸内の水分量を増やすマグネシウム製剤、腸を刺激することで便意を起こすピコスルファート製剤やセンナなどの生薬製剤、グリセリン浣腸などがあります。最近では高マグネシウム血症のリスクがある方にクロライドチャネルアクチベーター製剤が処方されることがあります。
腸をきれいにする5つの食べ物
腸内環境を整えてくれる食品は先ほど述べましたがもう少し具体的に見ていきましょう。
■①昆布、ワカメ
昆布やワカメには水溶性食物繊維が豊富に含まれています。
なお、昆布、ワカメのぬめり成分であるフコイダンが健康食品として一時注目されました。フコイダンは食物繊維の一種ですがこういう報告があります。
“RCT(Randomized controlled trial)、健康な成人19名 (平均21.9±0.2歳、日本) を対象とした二重盲検クロスオーバープラセボ比較試験において、モズク由来フコイダン810 mg/日を2週間摂取させたところ、排便日数、排便回数、排便量、便の性状、ニオイに影響は認められなかった。”
RCTは評価のバイアスを避けることで、客観的に治療効果を評価する手法のことを言います。メタアナリシスという手法の次に信頼性の高い手法です。
この研究結果からはフコイダン摂取によって効果が認められていないです。サプリメントで摂るのではなく食品として毎日の食事に取り入れて下さい。
■②納豆
納豆には大豆の食物繊維の他に、糖化菌としての働きによって腸内で乳酸菌の増殖を促す働きがあり、腸内環境を整えてくれます。
■③ヨーグルト
ヨーグルトに含まれる乳酸菌は腸内のpHを下げることで悪玉菌の増殖を抑え、アンモニアやガスなどの毒素の発生を抑える働きがあります。
■④キムチ
キムチは発酵食品で、乳酸菌が含まれており、唐辛子に含まれるカプサイシンは腸を刺激して排便を促す効果が期待できます。ただし、唐辛子を摂りすぎると蠕動運動が過剰になり下痢となりますのでキムチの辛さには注意が必要です。
■⑤ゴボウ、キャベツなどの野菜
ゴボウには不溶性食物繊維が含まれていて、便の嵩を増す作用によって蠕動運動を促し排便を促す効果があります。
まとめ
腸内環境を整えることで、様々な効果が得られることを理解いただけたと思います。
運動、食事、睡眠などライフスタイルを整えることが腸内環境を良いものにする近道なので、日々の生活を見直してみてはいかがでしょうか。
薬剤師をしています。ヘルスケア分野の情報をわかりやすく説明します。