※この記事は、薬剤師の資格を持つライターが書いています。
ネットで「ハゲ 治療薬」「男性型脱毛症治療 新薬」などのキーワードを検索すると『ザガーロ』という名前を見かけることが増えました。『ザガーロ』は薬の名前なのですが、どのような薬か知らない方も多いのではないでしょうか?
ザガーロは、2015年に日本で使用ができるようになった男性型脱毛症の治療薬です。今回は、ザガーロについて適切に使用する(適正使用)ために必要な内容について臨床試験の結果などを踏まえながらご紹介させて頂きます。
ザガーロ(デュタステリド)とは?
ザガーロは、製薬企業として世界第5位の売り上げを誇るイギリスのグラクソスミスクライン社によって開発された『男性型脱毛症』の治療薬です。ザガーロというのは商品名であり、その中に含まれる有効成分が「デュタステリド」という化合物です。
これはテストステロン還元酵素阻害剤に分類されます。ここで出てくる「テストステロン」は男性ホルモンの一種で、筋肉の増大や骨格の発達に関係しています。テストステロンは、身体のいくつかの部位に存在する酵素によって「ジヒドロテストステロン」という強力な男性ホルモンになります。
このジヒドロテストステロンは、頭髪に対して悪影響を及ぼし、その結果、抜け毛や薄毛が生じます。これが男性型脱毛症の起こるメカニズムです。一方、テストステロン自体は頭髪に影響しないとされていますので、ジヒドロテストステロンを生じさせないことが男性型脱毛症を防ぐことに繋がります。つまり、この酵素の働きを抑えることが重要なのです。
この酵素は、5α-還元酵素(テストステロン還元酵素のひとつ)というもので、実はこれを抑制する化合物が「デュタステリド」なのです。このようにしてデュタステリドを含む『ザガーロ』は、男性型脱毛症に効果を示します。
ちなみに、ジヒドロテストステロンは、前立腺肥大症にも関係するホルモンですので、ザガーロの有効成分である「デュタステリド」はもともと前立腺肥大症の薬として開発されていました。その薬は日本では2009年に承認されており、商品名を「アボルブ」といいます。
その後、男性型脱毛症の発現にジヒドロテストステロンが関与すると考えられることから男性の男性型脱毛症に対するデュタステリドの開発が進められました。男性型脱毛症においての韓国では2009年に承認を受けています。
日本ではデュタステリドの用量による有効性や安全性の確認、長期間使用による安全性の確認が行われ、それらによって日本人男性の男性型脱毛症におけるデュタステリドの有効性及び安全性が確認されました。また、有効成分がデュタステリドであり目的とする効能・効果が違う「アボルブ」という薬と区別する必要がありました。そこでアボルブとは色の違う見た目にすることで区別できるようにしました。日本で2015年に「ザガーロ」の使用が認められました。
名前の由来についてですが、「Z」には「進化した」「究極」「最後の砦」という意味が込められており、「AGA」は男性型脱毛症の英語「Androgenetic Alopecia」の略で、最後の「LLO」はスペイン語風の語感の良さとイタリア語では語尾が「o」で終わる名詞は男性を意味することから使われています。これらを併せて「ZAGALLO(ザガーロ)」と命名したそうです。
日本で現在使用(処方)されているのは、次の2種類です。
販売名 | ザガーロカプセル 0.1 mg | ザガーロカプセル 0.5 mg |
デュタステリド含量 | 0.1 mg | 0.5 mg |
カプセル表面の文字 (識別コード) | GS TFH | GS MUF |
分類 | 処方箋医薬品(医師の処方が必要) | |
形状・色調 | 楕円形・うすいオレンジ色 | 楕円形・うすい赤色 |
剤形 | 軟カプセル剤 | |
サイズ | 全長約19.3 mm、厚さ約6.6 mm |
この2種類は、どちらも大きさが同じカプセル剤で色もかなり似ていますが、デュタステリドの含量が5倍違います。間違って飲んでしまうと効き目が出ない、副作用が強く出る可能性がありますので、ご注意ください。もしどちらのカプセル剤か分からなくなった場合には、カプセル剤表面上に記載されている識別コードで区別できますので、そちらを確認してください。
ザガーロ(デュタステリド)の効能効果3つ
ザガーロ(デュタステリド)の効能効果を説明する前に、原因となっている男性型脱毛症について簡単に説明します。
■そもそも男性型脱毛症とは?
ザガーロの効能効果の説明に移る前に、そもそも男性型脱毛症とはどういうものなのでしょう。また、他の脱毛症とどう違うのでしょうか?
日本皮膚科学会の「男性型脱毛症診療ガイドライン」によると、以下の6点が特徴として挙げられています。
①発症には遺伝と男性ホルモンが関与
②パターン化した脱毛が特徴
③過去の統計では、日本人男性の発症頻度は全年齢平均で約30%
④思春期以降に始まり徐々に進行する脱毛症
⑤前頭部と頭頂部の頭髪が、軟毛化して細く短くなり、最終的には額の生え際が後退し頭頂部の頭髪がなくなってしまう現象
⑥日本人の場合には20歳代後半から30歳代にかけて著明となり、徐々に進行して40歳代以後に完成する
この発症に男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)が関与していることが、『男性型』と命名される要因となっています。見た目としては、パターン化と言われているように、前髪(おでこ)の生え際の後退と頭頂部の脱毛がポイントとなるようです。これらの部分の髪が細く短くなっていることが、肉眼でも確認できます。そして、頭髪全体が薄くなることや一部分だけが急に抜け落ちることはないとされています。
その他にも、遺伝が関係するとされていますので、家族歴(家族に男性型脱毛症になった人がいるか)も重要です。そういう方が家族にいる場合には、男性型脱毛症を発症する可能性が高いということです。これらの点を抑えておけば、他の脱毛症と容易に区別できるのではないのでしょうか。
また、男性型脱毛症は英語で表記すると「Androgenetic Alopecia」となります。そのため、これを略して『AGA』と記載されることもあります。ネットではAGAの方が多いくらいですので、AGAの表現が分かりやすいと感じる方もいると思います。
■ザガーロの効能効果3つ
男性型脱毛症についてわかったところで、実際にザガーロはどのような働きをしてくれるのでしょうか?
ザガーロの有効成分である「デュタステリド」は、
「①男性型脱毛症の進行を遅らせるはたらき」の他にも
「②細くなっている毛髪を太くするはたらき」と
「③活動を休止していた毛を作る器官(毛包)から、発毛を再開させるはたらき」
が認められています。
日本において、ザガーロは『男性における男性型脱毛症の進行遅延』にのみ使用が認められています。「男性における」となっていますので、女性が服用することはできません。女性で使用した際の効果が認められていないためです。
続いて、「男性型脱毛症」と限定されているのもポイントです。男性型脱毛症以外の脱毛症、例えば円形脱毛症などには効果がないとされていますので、このような場合には使用できません(使用するメリットがありません)。「男性型脱毛症」についての詳細は次項目に記載しておりますのでそちらをご参照下さい。
また、「進行遅延」となっていますので、あくまでも脱毛を抑える働きがメインとなります。具体的には、生え際の後退を止める、頭頂部が薄くなるのを防ぐという効果です。ただ、細く短くなっている髪を太く長くする作用や、一部の毛包から毛を再び生やす作用はありますので、「毛が増えた」、「髪がふさふさになった」、「頭頂部が黒くなった」と感じる方はいるようです。
■デュタステリドの薬理作用
前の項目「ザガーロ(デュタステリド)とは?」で述べたように、男性型脱毛症の発症には男性ホルモンである「ジヒドロテストステロン」が関与していると考えられています。脱毛の原因物質がこのホルモンということでした。また、ジヒドロテストステロンを作る酵素(5α-還元酵素)の量が、遺伝によって決まっているとの研究結果もあります。
これらから考えると、発症が遺伝するのも納得できますよね。このジヒドロテストステロンを作る5α-還元酵素を抑えることができれば、脱毛を防ぐことができるとの考えから開発されたのが、『デュタステリド』なのです。
酵素の中にもいくつかのタイプがあり、デュタステリドは、「5α-還元酵素のⅠ型とⅡ型」の2つを阻害することが実験で明らかにされています。この作用により、上で説明した3つの効果が発現するということです。
先に発売された「プロペシア」という男性型脱毛症の治療薬は「5α-還元酵素Ⅰ型」のみを阻害しますので、プロペシアで十分な効果が得られなかった方には、まさに「最後の砦」となるでしょう。
ザガーロ(デュタステリド)の臨床試験結果3つ
では、ザガーロはどの程度男性型脱毛症に効果があるのでしょうか?
これまでに行われた臨床試験の結果を見ていきましょう。
■①国際共同臨床試験
外国人と日本人に対して安全性と有効性を確認するために行われた臨床試験のデータです。
20歳から50歳の男性の男性型脱毛症患者917名(日本人200名を含む)を対象として行われました。なお、51歳以上の有効性を検討した臨床試験は実施されていません。
服用期間は24週間で、プラセボグループ181名、デュタステリドを1日0.02 mg服用するグループ185名、デュタステリドを1日0.1 mg服用するグループ188名、デュタステリドを1日0.5 mg服用するグループ184名、デュタステリドを1日1mg服用するグループ179名とランダムに分けられています。
「プラセボってなに?」と思う方もいらっしゃると思いますので、簡単にプラセボについて説明させて頂きます。プラセボとは、薬としての効果がない錠剤やカプセル剤などを指します。有効成分は入っていないため効き目は全くありません。有効成分の入っている薬がどれだけ効果があるか評価するための比較と言っていいでしょう。また、見た目もまったく同じように作られています。これは、患者側だけでなく医療者側もどっちが有効成分入りかプラセボかわからないようにし先入観がないようにして臨床試験の信頼性を上げるためです。今回の臨床試験も、飲んでいるカプセル剤の見た目が同じですので、患者も医師もどのグループに振り分けられたか分からないようになっています。
また男性型脱毛症患者は、薄毛の進行度を分類したNorwood-Hamilton分類のうち、以下の状態に属する方が選ばれています。
(引用:ザガーロカプセル 0.1 mg/0.5 mg 添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/340278_249900AM1023_1_05.pdf)
この臨床試験では、各患者の頭頂部円内(直径2.54cm円中)の毛髪数の変化で評価しています。プラセボ及びデュタステリドの服用開始前の毛髪数をそれぞれ基準とし、24週間投与した後の毛髪数を比較しています。その結果が次のとおりです。
プラセボ | ||||
0.02mg | 0.1mg | 0.5mg | ||
毛髪の変化量(本) | −4.9 | 17.1 | 63.0 | 89.6 |
この結果から、プラセボを投与したグループでは毛髪の本数が減ったのに対し、デュタステリドを投与したグループではすべてにおいて毛髪の本数が増加したことが分かります。また、中でもデュタステリド0.1 mgとデュタステリド0.5 mgにおいて毛髪の本数がよく増加していることも分かります。
また、この臨床試験では毛髪の太さにも注目して評価も行っており、デュタステリドの服用開始前より服用後が毛髪の太さが太くなる結果が得られています。
■②日本での長期投与試験
長期間使用した場合の有効性と安全性を確認する目的で行われた臨床試験です。
内容は、120例の男性の男性型脱毛症患者(Norwood-Hamilton分類のⅢvertex、Ⅳ又はⅣ)を対象とし、デュタステリド0.5 mgを52週間服用してもらい、頭頂部円内(直径2.54 cm円中)の毛髪の本数に変化があるか評価したものです。
その結果、頭頂部円内の毛髪数は薬剤を使用前と比べて68.1本増えており、改善が示されました。
■③海外での臨床試験
国際共同研究の他にも、海外にて有効性と安全性を確認する目的で行われた臨床試験のデータがあります。
男性の男性型脱毛症(Norwood-Hamiltonの分類のⅢvertex、Ⅳ又はⅤ)患者153例を対象としてプラセボを服用するグループとデュタステリド0.5 mgを服用するグループにランダムに分け、1日1回6ヶ月間(35週間)服用してもらい、それぞれのグループの毛髪数を比較しています。
ここでも、プラセボかデュタステリド0.5 mgか区別することができないよう見た目がそっくりにされており、患者も医師もどのグループに振り分けられているかわからないようになっています。
その結果が以下の通りです。
プラセボ | デュタステリド0.5 mg | |
毛髪数(本) (平均本数) |
+4.67 | +12.21 |
この臨床試験では、プラセボを服用したグループと比較してデュタステリド0.5mgを服用したグループの方が7.54本多い結果が得られています。また、安全性についてはデュタステリド0.5 mgを服用したグループで3例、プラセボを服用したグループで2例副作用の報告があったようですが153例を対象としていますので発現率は低いと言えるでしょう。
ザガーロ(デュタステリド)の正しい飲み方・服用方法
ザガーロカプセルは、「男性成人には、通常、デュタステリドとして0.1 mgを1日1回経口投与する。なお、必要に応じて0.5 mgを1日1回経口投与する。」と決められています。
ザガーロカプセルは効果の持続のために毎日継続して服用する必要があります。臨床試験の結果から考えると、早い人では服用開始して3ヶ月で好ましい効果が出る場合がありますが、通常では効果があるかを確認するために6ヶ月の継続服用が必要です。
そのため、プロペシア錠の有効性は、服用開始後6ヶ月の時点で判断することになっています。その際に、男性型脱毛症の進行遅延が認められない場合には、ザガーロカプセルの服用を中止することになります。
飲み方としては、ザガーロカプセルの内容物が口腔・咽頭粘膜を刺激する可能性があるため、カプセルは噛んだり開けたりせずにそのまま飲み込む必要があります。
また、デュタステリドの吸収と食事の影響についてですが、臨床試験において、食事前に服用した場合より食事後に服用した場合の方が吸収されるデュタステリドの量が少し減る結果が出ましたが、治療において影響するほどではないとされています。吸収とは、腸などから血液中に取りこまれることです。その後、血液によって頭皮に運ばれ、効果を示すという流れです。
効果については食事の影響はないようですし、1日1回服用する薬ですので、好きなタイミングで飲めば良いということになります。ですので、飲むことを忘れにくいタイミングを決めておくと良いでしょう。医師と相談しながら、自身のライフスタイルに合わせて服用タイミングを決めることをお勧めします。忘れにくいタイミングとしては、朝起きた後や朝食後、寝る前などが挙げられます。
そして飲料の影響もこれまで報告がありませんので、服用する際は、どの飲料で飲んでも問題がないと考えられます。水でもお茶でも、食事時のコーヒー、ジュースなどでも大丈夫ですので、この点も服用タイミングをライフスタイルに合わせやすいポイントだと考えます。
■禁忌・慎重投与について
ザガーロ(デュタステリド)の禁忌は以下の通りです。
・デュタステリドまたは他の5α-還元酵素(テストステロン還元酵素のひとつ)に対して過敏症を起こしたことのある方
・女性
・小児等
・重度の肝機能障害がある方
これらの方は『禁忌』に該当しますので、服用はしてはいけません。
薬を使用して皮膚に赤いぶつぶつができる、高熱(38度以上)が出る、首・わきの下・股の付け根が腫れるなどの症状をまとめて過敏症と言います。薬を使用してすぐに起こるというよりは、2週間以上使用して起こることが多いようです。症状は様々ですが、命にかかわることもあります。この過敏症は、成分が似ていれば起こる可能性もあるため、デュタステリドのみならず、他の5α-還元酵素(テストステロン還元酵素のひとつ)で過敏症を起こした経験のある方も服用をしないようにとされています。
女性・小児等に対しては、安全性や有効性が確立されておらず、使用が承認されていません。また、妊婦が服用するとデュタステリドの薬理作用により、男子胎児の発育に影響を及ぼす可能性があることが分かっています。
これらの方はデュタステリドに触れないようにする必要があります。そもそも女性・小児等には使用が認められていないので、これらの方には医師から処方されることがないと考えられます。ですので、デュタステリドに触れるとすれば家庭や職場などで他人が服用している場合でしょう。ザガーロカプセルはカプセルの中にデュタステリドが入っていますので、通常の取り扱いではデュタステリドに触れることはありえません。ですので、他の方が普通に服用する分には、気にすることはありません。ただ、カプセルを開ける、破損した場合には、触れてしまう可能性がありますので、そういう場合には近寄らないようにしてください。また、皮膚にカプセル中の薬剤に触れた場合には、直ちに石鹸と水で洗うようにしてください。
また、医薬品の成分の多くは体の中で処理され別の成分に形が変わります。これを代謝と言います。私たちの体は薬を吸収した後、「不必要なもの」とし体の外へ出そうとします。その際、代謝を行うことで体の外に出しやすくしているのです。
デュタステリドの場合、代謝は肝臓で行われます。代謝を受けるとデュタステリドは効果を発揮しなくなります。肝臓が弱っていると代謝されないデュタステリドの割合が増えてします。その結果デュタステリドの血液中の濃度が上がり、副作用が強く表れる可能性があります。
そのため、肝機能障害がある方は「慎重投与」に該当します。肝機能障害の患者での安全性が確認できていないためです。ですので、使うことはできますが、副作用がでないか十分に確認しながら使う必要があります。しかしながら重篤な肝機能障害がある方については「禁忌」の対象となっているため、こちらに該当する方は使用をすることができません。
肝機能障害がある方は、医師の指示の元で服用する、または服用できないこともありますので、医師の指示をしっかりと守ってください。
なお、20歳未満での安全性及び有効性は確立されていませんので、20歳未満の方の服用もお勧めできません。他の脱毛症治療薬を用いた方が良いでしょう。
■服用上の注意
「本剤を6ヵ月以上投与している患者のPSA値を評価する際には、測定値を2倍した値を目安として基準値と比較すること。」と指示があります。
有効成分のデュタステリドは男性ホルモンに影響しますので、男性ホルモンが関与する臨床検査値に影響を与える可能性があります。臨床試験において、前立腺がんの存在下であっても、デュタステリド投与6ヵ月後に血清PSA(前立腺特異抗原)の濃度を約50%減少させることが分かりました。
PSAは前立腺から分泌される成分で、血清PSA濃度は前立腺癌のマーカーとして用いられています。つまり、デュタステリドを服用していることといつから服用しているかを検査担当者に伝えないと前立腺がんの発見が遅れる可能性があるということになります。健康診断などで血清PSAを測定する際には、必ずその旨を医師もしくは担当者にお伝えください。
ザガーロ(デュタステリド)の副作用
デュタステリドは副作用の発現率が低い安全性の高い薬だとされていますが、やはり薬ですので副作用が出ることがあります。薬理作用がジヒドロテストステロンの生成阻害ですので、男性ホルモンを介する副作用が出ることが多いようです。
複数の国が協力して行った国際共同臨床試験では、デュタステリド0.1 mgと0.5 mg服用グループを合わせて17.1%(日本人120例を含む557例中95例)に副作用が確認されています。
この臨床試験において日本人のみでは11.7%(120例中14例)に副作用が確認されています。また、国内で実施されたデュタステリドを長期間服用した臨床試験では16.7%(120例中20例)に副作用が確認されています。
■重大な副作用
これまでに確認されている重大な副作用は『肝機能障害』です。デュタステリドなどの化学成分(薬の有効成分)が体内に吸収されると、私たちの身体はその化合物を「不必要なもの」と判断して、身体の外に出そうとします。その流れとして、「代謝」というものがあります。前の項目「ザガーロ(デュタステリド)の正しい飲み方・服用方法」の「禁忌・慎重投与について」で述べた通り、デュタステリドは肝臓の働きで薬の形を変えて身体の外に出しやすくしています。
そのため、薬を飲むことにより肝臓が働きますので、多少なりとも肝臓に負担をかけることになります。ですので、負担がかかりすぎると肝臓が弱ってしまい、正常に働かなくなることがあります。この状態が肝機能障害です。健康診断や病院での検査で、肝機能検査値異常(AST、ALTなど)により気付くことが多い副作用です。しかし、この検査値については血液検査を症状が進んだ場合には、全身倦怠感(だるさ、疲労感)、食欲不振が続く、尿の色が濃くなる、黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる)などの自覚症状(自分で気づくことのできる症状)が出てきます。これらの自覚症状が出た場合には、早急な対応が必要ですので、すぐに近くの医療機関を受診してください。
■その他の副作用
これまでに確認されている副作用は以下の通りです。
種類 | 1%以上 | 1%未満 | 頻度不明 |
過敏症 | 発疹 | 蕁麻疹、アレルギー反応、瘙痒症、限局性浮腫、血管浮腫 | |
精神神経系 | 頭痛、抑うつ気分 | 浮動性めまい、味覚異常 | |
生殖系 及び 乳房障害 | 性機能不全 (リビドー減退、勃起不全、射精障害) | 乳房障害 (女性化乳房、乳頭痛、乳房痛、乳房不快感) | 精巣癌、精巣腫脹 |
皮膚 | 脱毛症(主に体毛脱落)、多毛症 | ||
消化器 | 腹部膨満感 | 腹痛、下痢 | |
その他 | 倦怠感、血中クレアチンホスホキナーゼ増加 |
男性ホルモンが関係する「生殖器」に関する副作用が多いことが分かります。唯一1%以上の頻度の副作用は、「性機能不全(リビドー減退、勃起不全、射精障害)」です。リビドー減退とは性欲・性衝動が低下することです。性欲については、年齢による低下もありますので、薬の影響かどうかの判断が困難な場合もあります。そういう症例も含めての発現頻度だとご理解ください。
もし、性欲などの低下や勃起しない、射精できないと気になる場合、生活上問題となる場合は、デュタステリドの服用を一度中止して様子を見る必要があります。
なお、「頻度不明」に分類されているものは、詳しい情報が不足している場合や海外で確認されている場合などであり、日本でどれくらいの頻度で起こるか分からない副作用となります。
■乳がんとの関連について
デュタステリドが関係しているか不明ですが、デュタステリドを服用していた方で男性乳がんになったとの海外の報告があります。これを確かめるために海外で臨床試験が行われています。それらの臨床試験での乳がんの発生率は以下の通りです。
総症例数 | 試験期間 | デュタステリド服用グループ | プラセボ服用グループ |
4325例 | 2~4年 | 2例 | 1例 |
なお、デュタステリドと乳がんとの関連については、国内臨床試験での報告はありませんので、今のところ関連性はないかあってもわずかであると考えられます。
■前立腺がんとの関連について
前立腺がんの発生リスクを高める可能性があります。国際共同試験で、50~75歳の男性8231例(日本人57例含む)が4年間デュタステリドもしくはプラセボを服用したところ、高悪性度前立腺がんの発現率がプラセボ服用グループで0.5%だったところ、デュタステリド服用グループで1.0%と高かったようです。ですので、デュタステリド服用中は、前立腺がんの検査を定期的に受けることをお勧めします。
ザガーロの初期脱毛の期間はいつまで?
男性型脱毛症治療薬、ザガーロなどでキーワード検索すると、『初期脱毛』という言葉を目にするかと思います。「脱毛症を治療する薬なのに毛が抜けてしまう!?」と不安に思う方や実際に男性型脱毛症の治療薬を使用して初期脱毛を経験し驚いた方もいらっしゃると思います。
ここでは、ザガーロの初期脱毛の期間を説明する前に、初期脱毛やヘアサイクルについて理解を深めてもらえるよう、それらについて解説します。
■初期脱毛とは?
まず、「初期脱毛」とは、男性型脱毛症治療薬を使用し始めてから数日の間で、毛髪が抜け落ちることを意味します。症状としては、「細い毛や短い毛が抜ける」「薄くなるまたはハゲる」というものが挙げられます。
これらの症状は、個人差があるようで抜け落ちる量が多い方もいらっしゃれば全く抜けなかった方もいらっしゃるようです。また、ここで抜け落ちるのは、細い毛髪ですので、太くてしっかりとした毛髪がたくさん抜ける場合は初期脱毛ではないと考えられます。
この初期脱毛は、1度起これば終わりというわけでもなく、2度3度と脱毛が起こる方もいるようです。
■ヘアサイクルとは?
毛髪は、成長期、退行期、休止期という3つの期間をぐるぐるとサイクルしています。
成長期は新しい毛髪が生えて成長する時期、退行期は毛髪の成長が止まる時期、休止期は毛髪が抜け毛根が眠る時期とされています。何らかの原因で頭皮が不健康な状態になるとこのサイクルがうまく機能しなくなり、成長期に入っても伸びなかったり伸びきる前に抜けたりなど毛髪に影響を及ぼすことになります。男性型脱毛症治療薬はこのヘアサイクルを正常化するようはたらきます。
■初期脱毛が起こる理由
初期脱毛は、男性型脱毛症治療薬がヘアサイクルにはたらきかけることにより起こります。男性型脱毛症治療薬がヘアサイクルを早め、その結果、古い毛髪を押し出すこととなるからです。この押し出された毛髪こそが抜け毛です。
つまり、薬が効いているからこそ初期脱毛が起こると言っても良いでしょう。この抜け毛が収まると新しい産毛が生えてきます。また、男性型脱毛症治療薬を使用していますので、強い産毛が生えてくるでしょう。
■初期脱毛はいつまで続く?
ザガーロを使用した場合、効果の発現に約半年間かかると言われています。
個人差のある初期脱毛ですが、やはり期間や回数においても短かった人、長く続く人、1度で終わった人、何度かあった人など個人差があります。男性型脱毛症治療薬を使用しているのに抜け毛が止まらないと不安になり、薬の服用を辞めてしまう人もいるようです。しかし、先ほど記載したように、初期脱毛は薬が効いている証拠でもあります。半年間は根気強くザガーロの使用を続けていきましょう。
また、初期脱毛についての不安や気になること、半年以上使用しても初期脱毛が止まらないなどお困りの際には専門クリニックに相談することをお勧めします。そのほかにも、太い毛髪の脱毛が続く場合には、他の原因によって抜け毛になっている場合が考えられます。
ザガーロと他の薬との飲み合わせ
デュタステリドと他の薬との飲み合わせについては抗菌薬であるイトラコナゾールとの飲み合わせが悪い(相互作用が起こしやすい)ことが報告されています。
デュタステリドは、小腸から吸収され血流にのって分布したのち代謝されて体外に排泄されますが、この代謝は私たちの体の中にある酵素の働きによって行われます。実は薬剤の中にはこの代謝酵素を図らずしも抑制してしまうものもあるのです。
イトラコナゾールはこの代謝酵素を抑制する働きも持っているのです。そういった薬と同じあるいは近いタイミングで服用すると、デュタステリドの代謝酵素が抑制されてしまい、デュタステリドが血中にある状態が長くなります。この状態が続くと副作用が表れやすくなる可能性があります。
他にもこの代謝酵素を抑制する薬はありますがそれらの薬とデュタステリドの飲み合わせについての臨床試験は行われていないようです。 もし、使用中の薬がある場合や飲み合わせが気になる場合には医師・薬剤師に相談することをお勧めします。
また、他の相互作用を起こしやすい5種類の薬(コレスチラミン、ワルファリン、ジゴキシン、タムスロシン塩酸塩、テラゾシン塩酸塩)と併用した試験がありますが、これらの全てにおいて問題がなかったそうです。
ザガーロの価格相場
やはり、治療効果以外にも気になることは「ザガーロのお値段」についてではないでしょうか?
ザガーロは処方箋医薬品に分類されます。これは、医師の診断の元、処方箋に基づき薬局から購入するお薬であることを意味します。つまり、薬局で直接お買い求めになることもできませんし、ドラッグストアでは購入できない以前に販売を行っていません。
男性型脱毛症にしか使えない薬ですので、専門クリニックの受診を経てザガーロを購入することをお勧めします。
クリニックによって価格が違うようです。安いところでは初回に限り4800円、2回目以降を8200円(どちらも30カプセル、1か月分)となっているところもあります。全国的に平均して1か月分(30カプセル)で10000~11000円のようです。価格については、ネットで価格表示を行っているクリニックも多いので、事前に調べて受診するクリニックを決めることも可能でしょう。
また、クリニックによっては支店限定での取り扱いになっているところもあります。同じクリニックでもA支店ではザガーロを取り扱っているが、B支店では取り扱っていないということもあるようですので、事前に調べて受診クリニックや支店の場所を決めることをお勧めします。
まとめ
以上、ザガーロ(デュタステリド)について様々な視点から紹介しました。
男性型脱毛症に対する効果や服用方法、使用する上での注意点、そして副作用について分かって頂けたのではないかと思います。また、クリニックによっても取り扱っていないところや価格に差がありますので、事前にインターネットなどで調べてから行くと良いでしょう。
ザガーロ(デュタステリド)は、男性型脱毛症の適応を有している数少ない薬ですので、初期脱毛にも負けず、うまく使って進行を抑えたいですね。今回の情報がザガーロを適正に使用するための参考になればと思います。
薬剤師をしています。ヘルスケア分野の情報をわかりやすく説明します。