腹筋と背筋をバランスよく鍛えていない人は、腰痛に悩む人も少なくありません。
そんなとき、腰痛に悩む方に対して「腹筋をすれば治る」というアドバイスをよく聞きます。骨盤の傾きや背骨の無理な曲がり方によって腰痛が引き起こされている場合、腹筋群を鍛えることでコルセットのように矯正してあげようという考え方なのです。
一方で「背筋をすれば腰痛はよくなる」という意見もよく耳にします。これも発想のベースは同じで、背筋群の筋力によって骨格の歪みを矯正していこうという意味なのです。
腹筋を、あるいは背筋を集中して鍛えた結果、腰痛がさらに悪化してしまったという残念ねお話もひんぱんに伝わってきます。筋トレすること自体はよいことですが、1ヵ所の部位を集中的に鍛えすぎることによって筋力のバランスが崩れたり、間違ったフォームで行うことによって痛みをさらに引き起こすこともあるのです。
では、腹筋群と背筋群、どちらを優先し、どれだけの割合で鍛えていけばよいのでしょうか? これは腰痛に悩む方だけでなく、体幹を鍛えたい方、アスリートとしてより向上したい方にも共通の疑問ですよね。
腹筋と背筋をバランスよく鍛えるトレーニング方法をチェックしていきましょう。
腹筋と背筋の適切なバランスは?
「腹筋と背筋のバランス」‐。そもそも、この言葉自体が大きな誤解を招いている要因です。バランスと聞けば誰しも、「腹筋50回を行ったら、次は背筋50回」という回数の配分を想像するのではないでしょうか?
実はこれが誤解。腹筋群(身体の前側)、背筋(群身体の後ろ側)という「前後のバランス」はもちろん大切なのですが、腹筋・背筋は「右半身」「左半身」という左右のバランスを考慮しながら行う必要もあるのです。
人間の身体は決して左右対称ではありません。鏡に映った自分と、写真で見る自分の顔に微妙な違いがあるのは、顔が左右非対称なため。腕の長さ、足の長さも左右で微妙に違います(多くは利き手側が少し長くなっています)。
腹筋と背筋もまったく同じ。右側の腹筋が弱かったり、左側の背筋が強すぎたり、左右で筋力差があるものなのです。自分の腹筋・背筋は左右どちらに筋力のかたよりがあるのか?
まず、それをチェックして、身体をシンメトリーに整えるトレーニングが必要となってきます。土台の部分から既に左右のズレが生じているのに、ただいたずらに筋トレを積み重ねていくだけではズレがどんどん大きくなってしまうのです。左右のバランスを整えることで腰痛改善や身体能力アップの第一歩が踏み出せるのですね。
腹筋と背筋の比率と回数
「腹筋をメインに鍛えるべき」「背筋7、腹筋3の割合で」「腹筋と背筋は同じ数だけやる」…ネット上にはさまざまな意見が見られますね。腹筋と背筋の比率と回数を考えるには、両者のボリュームから考えていくと分かりやすいでしょう。
割れた腹筋はとても目を引きますが、実は身体の中で腹筋群はとても小さな部位。腹直筋、腹横筋、内外の腹斜筋が重なり合って構成されており、鍛え上げられた陸上選手でも厚さは最大3cmほどといわれています。
狭く薄いために、鍛えても劇的に大きくなることはありません。割れて見えるのは腹筋が発達していることより、皮下脂肪が少ないため筋肉の形が分かりやすく浮き出ている要素の方が大きいのです。いわゆるバキバキに割れた腹筋を作りたいなら筋トレだけでなく、体脂肪を減らす有酸素運動が必須と唱えられているのはこのためです。
対して、背筋群は大きく複雑です。脊柱起立筋(正しくは棘筋、最長筋、腸肋筋が集まったもの)、僧帽筋、広背筋などいくつもの筋肉から構成されており、首の後ろから腰まで広い範囲をカバーしているのが特徴です。
筋肉のボリュームが多く、パワーもスタミナもあるのが背筋群なのです。頭部や脊椎を後ろから引っ張り上げるように支えるのが背筋の役目ですから、大きくて強いのは必然といえるでしょう。
薄くて小さい腹筋をトレーニングで徹底的に追い込むより、背筋をより大きく強くしていく方が効率的ですし、人体の構造としても理にかなっています。「背筋7、腹筋3の割合」をおおよその目安にして、左右のバランスを意識しながら鍛えていくとよいでしょう。
■腹筋も背筋もスタミナを意識して鍛える
背筋は広範囲かつ複雑に構成されているので、特定の部位、例えば脊柱起立筋だけを意識して鍛えるのは難しいもの。大まかに左右の筋力差だけを感じ取るようにしてください。
腹筋は主要部分である腹直筋の収縮を感じることが大切です。左右にひねったり動かす時には、腹直筋の腹斜筋が働くのを意識してみましょう。
筋トレは多くの場合15回がひとつのめやすとなります。軽い負荷で100回行うより、強度を上げて15回でオールアウト(全力を出し切ること)を目指す方が、はるかに筋肥大の効率がよいからです。全力の15回を2~3セット繰り返すのが一般的な筋トレの回数です。
腹筋は上で述べた通り、さほど大きなパワーを発揮する筋肉ではありませんから、15回×2~3セットにこだわる必要はありません。下で紹介しているメニューは5回、10回などより少ない回数をめやすにしています。
回数以上に重要になってくるのが時間です。腹筋も背筋も寝ている時以外は常に使われている筋肉なので、スタミナが大切になってきます。一定のポーズを数十秒間キープするといったメニューが有効なのです。筋力に合わせて10秒間から徐々に増やしていくのが理想です。
腹筋と背筋を同時に鍛える効果5つ
■1. 姿勢がよくなる
腹筋、背筋を前後左右バランスよく鍛えていくことによって、骨盤の傾き、背骨の歪みが徐々に矯正され、美しい立ち姿・座り姿になります。
■2. 便秘や腰痛、肩こりなど、身体症状の改善
腰痛、肩こり、むくみ、便秘、下痢、生理不順といった身体症状は身体の歪みに起因している場合があります(内科的疾患の可能性もあるので、すべてにあてはまると断定できません)。トレーニングによって歪みを矯正していくと、こうした症状の緩和につながることもあります。
■3. ダイエットしやすい身体になる
腹筋群・背筋群はボリュームの大きい筋肉ではありませんが、トレーニングで筋肥大させることによって基礎代謝がアップし、より痩せやすい(カロリーを消費しやすい)身体になります。
■4. スポーツのパフォーマンス向上
腹筋群・背筋群は種目を問わず、あらゆるスポーツに役立ちます。ランニングや登山など一見、脚力が重要視されるようにみえるスポーツでも、実は腹筋・背筋の強化がとても大切です。
■5. 疲労の軽減
試しに全身の力を抜いて、だら~んとした姿勢を取ってみてください。頭が自然と前に下がってきませんか?
二足歩行する人間は、重い頭(脳)を常に支えてやる必要があります。言い換えれば人間とは、ただ立っているだけでも疲れる生き物なのです。腹筋・背筋を鍛えておけば、頭を支えるといった姿勢の維持全般が楽になるため、疲れにくい体質になるのです。
腹筋と背筋の筋力トレーニング方法7選
ジムで一生懸命ベンチプレスを積み重ね、そこそこのウエイトを上げられるようになったのに、引っ越しの手伝いをしたら軽そうな家具でもうまく持ち上げられなかった。そんな筋トレ愛好家の話を聞いたことがあります。これは、トレーニングで鍛えた動きを、日常動作にうまくフィードバックできていないためです。
腹筋運動はあおむけで、背筋運動はうつぶせで行うものと思い込んでいませんか?
しかし、日常やスポーツの場面で腹筋の力が要求される時、あおむけになっていることがあるのでしょうか?
サッカーでパスやシュートをする時は、腹筋の力が大切になります。足を振りぬく動きには腹筋が連動するからです。パスやシュートはもちろん立った姿勢で行いますよね。
日常生活で腹筋を使う頻度が高いのは排泄。腹筋を収縮させることによって便を押し下げるのです。この時、みなさんは座ったり、しゃがんだ姿勢で腹筋を使っていますよね。ちなみに腹筋が弱い方は便秘の傾向が見られます。
つまり、実際に腹筋が必要となるのは立ったり座ったりしている時。腹筋運動のようにあおむけの状態で力を使う場面は意外と少ないのです。
あおむけの腹筋運動で筋力をアップさせたら、それを立った姿勢、座った姿勢でどうフィードバックさせるか、身体に覚え込ませる必要があります。せっかくの筋力を生活に生かせなかったら筋トレの意味も半減ですよね。
以下に紹介するメニューは腹筋、背筋を同時に鍛えることのできるメニューです。あおむけやうつぶせで行うものが中心ですが、普段の動作の中でこれを思い出して、脳にフィードバックさせていくのもトレーニングのひとつです。
■1. シングルレッグ・ヒップリフト
ヒップリフトはあおむけで膝を立てた状態から腰を持ち上げる代表的な腹筋メニューです。このバリエーションとして片足を伸ばしたままで行うシングルレッグ・ヒップリフトを実践してみましょう。
片足ずつ行うことで負荷が高まるのはもちろん、左右の弱い側をより意識できるのがメリットです。左右10回ずつ2~3セットがめやすです。
■2. 片手伸ばしプランク
ポピュラーな体幹トレーニングであるプランクを、片手を伸ばした状態で行います。これも負荷アップと同時に、シンメトリーを意識したトレーニングです。
うつぶせの状態から前腕とつま先で身体を支えるのがプランク。さらに片手をまっすぐ頭の先へ伸ばします。この時、伸ばした腕、胴体からつま先までが一直線になるよう姿勢を維持しましょう。両膝はしっかり伸ばします。支える側の腕は肘を90度に曲げます。
10秒間静止を左右5回ずつがめやすです。
■3. 片手伸ばし片足伸ばしプランク
「ロータリー」とも呼ばれるエクササイズです。上のメニューでさらに反対側の足も上げるだけ。右腕を伸ばし左足を上げる、左腕を伸ばし右足を上げる、と互い違いになるようにしましょう。よりハードかつバランス感覚を要求され、腹筋、背筋を同時に鍛えることにつながります。
■4. レッグツイスト
左右に筋力差、骨格の歪みを整えてくれるシンメトリーエクササイズであり、腹筋トレーニングとしても有効です。
両手は横にひろげて、手のひらを床につけましょう。次に両足を揃えて垂直に上げ、左右交互にゆっくり足を下していきます。床すれすれでストップして元の位置に戻ります。
左右合わせて20回を2~3セットがめやすです。負荷が高すぎると感じたら膝を曲げて行いましょう。
■5. ジャックナイフ
腹筋・背筋トレの中でもハードな部類に入るメニューです。
あおむけになり両手をまっすぐ頭の上にあげた姿勢をとります。そこから上半身、両足をゆっくり上げていきます。横から見たV字形がジャックナイフのように見えることから、この名がつきました。
ポイントは上半身を胸のあたり(肩甲骨が床から離れる程度)までしか上げないこと。これはシットアップ(腹筋運動)にも共通することですが、上体を上げ過ぎないことが腹筋に効かせるコツです。お腹まで持ち上げてしまうと下半身の筋肉まで動員されてしまうため、腹筋への負荷が逆に減ってしまうのです。
■6. 腕立て伏せ(プッシュアップ)
腹筋・背筋の筋トレになぜ腕立て? と思われる方もいるでしょうが、実は上腕だけでなく広背筋など背中側の筋肉や、腹筋(腹斜筋が中心)、ふとももの筋肉まで総動員できる複合的なメニューなのです。
身体を沈み込ませる時は上腕三頭筋や大胸筋が主に動員されます。再び持ち上げる際には背筋・腹筋が主に使われます。上げる動作をゆっくり行うことで背筋・腹筋を攻めていきましょう。上げきったところで静止するのも、よいトレーニングになります。
■7. 体育座りからのかかと上げ
膝を抱えた体育座りのポーズをとり、かかとを浮かせます。お尻に重心をかけてバランスを取りましょう。つま先は天井を向くようにします。
3秒間キープを5~10回行います。
腹筋と背筋のトレーニングにおすすめのマシン器具5つ
■1. バランスディスク
バランスボールより小型かつ安価で、同様のドレーニングを行えるのが特徴です。バランスディスクの上に立ったり座ったりしてエクササイズを行います。いずれも不安定な姿勢で行うので体幹のトレーニングに有効です。
腹筋と背筋を同時にトレーニングする代表的なメニューは、バランスディスクに乗っての「体育座りからのかかと上げ」です。
■2. バランスボール
体幹トレーニングでおなじみの器具ですね。座るだけで体幹を刺激できる手軽さがメリットです。
腹筋、背筋を同時に鍛えるメニューとしては、胸の下にバランスボールを入れて、左右の腕を交互に前に出すエクササイズがあります。
腕を伸ばした状態で10秒静止。足は揃えて身体を一直線に。腕は水泳のクロールをするイメージで交互に前に出していきます。左右各1~3回がめやすです。
両腕を前に出して10秒静止するバリエーションもあります。
■3. シットアップベンチ
より本格的な筋トレを目指す方におすすめです。腹筋・背筋運動はもちろん、ダンベルを持ってあおむけで行うアームプルオーバーなどにも役立ちます。
スポーツジムで使用しているタイプは高額ですが、自宅向けなら1万円以下で入手できます。スペースを考慮した折り畳み式の商品もあります。
自分の身体を預けるものなので強度はとても大切。各商品のスペックを比較し、口コミも参考にしながら注意深くセレクトしてください。
■4. ダンベル
本格的に背筋を鍛えていくならダンベルは必需品。ベントオーバーロー、タッチトウズといったメニューに用います。
■5. メディシンボール
ウエイトの入ったボールです。足の間に挟んで、上で紹介したレッグツイストやレッグレイズ(足上げ腹筋)を行います。手に持ってジャックナイフをするのもよいですね。ダンベル代わりにそのまま上げ下げしするのもアリ。多彩なメニューがあり、サイズも大きくないのでコスパに優れた器具と呼べるでしょう。
まとめ
ここまでご紹介したメニューだけでなく、腹筋・背筋の左右バランスを整える方法はたくさんあります。それも、エクササイズと呼ぶより、「動作に変化をつける」と呼んだ方が正確なくらい簡単なやり方です。
例えばイスにお尻の半分だけ座る‐。背すじをまっすぐ伸ばし、座面にお尻の半分だけ乗せて座ってみてください。左右交互にお尻を乗せて試してみると、バランスを取りずらい方が分かるはずです。バランスの崩れやすい方が、筋力の弱いサイドなのです。
左右どちらが弱いか分かったら、エクササイズの際、そのサイドをより強く意識してみてください。右が弱いからといって「右20回左10回」と差をつける必要はありません。今度は身体の左側が弱くなるアンバランスがまた生まれてしまいます。回数と強度に差を付けず、意識のしかたでバランスを整えていきましょう。
左右と同時に前後の意識づけも大切。「常にお腹を引き締めた状態で立つ」「背すじを伸ばして立つ」…こういった小さな意識の積み重ねが、腹筋と背筋のバランスを整えることに役立つのです。
近年、「バキバキに割れた腹筋」という言葉が流行したおかげで腹部の筋トレばかりが注目されていますが、お腹をひっこめて猫背にならないことを意識するだけでも腹筋・背筋のトレーニングになりますし、健康増進や他人からの印象を変えることにもつながるのです。
トレーナーとして活動しています。ダイエットやトレーニング方法についてお伝えします。