太ももの裏側にある筋肉「ハムストリング」は、鍛えていないとちょっとしたことで筋肉痛を起こしてしまいます。
筋肉痛の予防・回復にはストレッチが一番! 日頃から太ももの裏をよく伸ばしておく習慣をつけましょう。ただし、筋肉痛の意外の理由で太もも裏が痛む時もあります。こんな時にストレッチするのはむしろ逆効果。
筋肉痛以外にはどんなトラブルがあるのか? どうやって治すのか?も、あわせてまとめてみました。
太ももの裏にある筋肉の構造と名称
人体は約400個もの骨格筋で構成されています。太ももにもたくさんの筋肉が集まっていますが、おおまかな分類として「表側は大腿四頭筋、裏側はハムストリング」と覚えておきましょう。大腿四頭筋、ハムストリングどちらも複数の筋肉から構成されています。
一般的にハムストリングと呼ばれているのは「大腿ニ頭筋」(だいたいにとうきん)、「半腱様筋」(はんけんようきん)、「半膜様筋」(はんまくようきん)の3つ。
中心となっているのは大腿二頭筋。股関節と膝関節を結んでいる「二関節筋」です。半腱様筋と半膜様筋はともに太ももの内側についているので、「内側ハムストリング」とも呼ばれます。
ハムストリングは、膝の曲げ伸ばし、股関節の開閉をつかさどっており、走る、歩く、ジャンプするといった動きに欠かせないものです。陸上選手は特にハムストリングが発達しているため、「スプリンター筋」とも呼ばれています。
太ももの裏(ハムストリングス)が筋肉痛になる原因
筋肉は使わずにいると固くなってしまいます。デスクワークやドライバーなど座り仕事で、かつ運動習慣のない方はどうしてもハムストリングが固くなりがちです。
ハムストリングに柔軟性のない方が急に走ったりすると、ひどい筋肉痛に見舞われることがあります。「子どもの運動会で親子リレーに参加した翌日、太ももが痛くて動けなかった」など、いわゆる「あるある」ですよね。
筋肉痛で済めばまだまし。ハムストリングは肉離れを起こしやすい部位なので、注意が必要です。
筋肉痛やケガを予防するには、日頃からのストレッチが大切。
わざわざスポーツジムに通わなくてもかまいません。横向きに寝ている時に膝を曲げ、足首をつかんでゆっくり引っ張るだけでもストレッチになるのです。椅子に座っているなら、片膝を伸ばして上体を前に傾けてみましょう。あおむけになって膝を抱えるのも、よく知られたハムストリングのストレッチ方です。
太ももの裏が筋肉痛になったときの治し方
日頃、運動習慣がないとちょっと走っただけでも筋肉痛になってしまうことがあります。
筋肉痛はかつて、疲労によって「乳酸」という物質がたまるせいだと言われてきましたが、近年は否定的な見方がひろまっています。
筋肉痛とは、筋繊維が壊れて炎症を起こしている状態。そのためにはまず患部を冷やしてあげることが大切です。
アイシングや玲湿布、シャワーの冷水をあてておきます。運動後、あるいは痛みが発生してからなるべく早いタイミングで処置すると回復が早くなります。その日はお風呂でゆっくり温まってしめくくりましょう。全身の血行をうながすことで、老廃物を素早く取りのぞき、筋繊維の再建に必要な栄養素を送り届けることができます。ダイエット中の方でも、筋肉を作るのに必要なタンパク質やアミノ酸、各種ビタミン・ミネラルをしっかり補給します。
痛みがひどい時は動かさないのがベター。「筋肉痛の時こそ動いて直す!」と張り切って無理に運動すると、筋繊維の回復がますます遅れてしまいます。
しかし、さほど状態が悪くない時は血行をうながす意味で、ハムストリングのストレッチを行いましょう。
上で紹介した方法の他、床に座って片膝を曲げ、伸ばしている足の方へゆっくり上体を倒すストレッチがあります。いずれの場合も腰を曲げず、背すじを伸ばしておこなうのがポイント。腰を曲げて無理にストレッチすると、太もも痛だけでなく腰痛まで招いてしまいます。
筋肉痛じゃない?! 筋肉痛ではないときの症状と見極め方
スポーツや筋トレ後ではなく、太ももの裏やお尻に痛みやしびれがある‐。そんな時は筋肉痛より、神経を原因とする疾病を疑ってみた方がよいかもしれません。太もも裏を中心とする下半身の痛みの代表例として「坐骨神経痛」があります。
■坐骨神経痛とは?
腰から足にかけて通っている「坐骨神経」と呼ばれる大きな神経が、何らかの圧迫や刺激を受けて生じるものです。今回は太もも裏の痛みを紹介していますが、多くの場合、腰痛を発端に下半身への痛みにつながっていきます。重度の場合、麻痺や歩行困難をともなうことがあります。
■坐骨神経痛の原因
若年層と中高年で原因が異なる傾向が見られます。
年齢が若い頃は椎間板ヘルニアが主因。高齢になるにしたがって、腰部脊柱管狭窄が原因となるケースが増えていきます。どちらも腰椎の異常によって、坐骨神経が圧迫されるという病態に変わりありません。
椎間板は20才を過ぎた頃から徐々に弾力性が衰えはじめる部位です。スポーツや日常動作などちょっとしたことでも、椎間板は潰れたり、ヘルニア(飛び出すこと)になってしまうのです。これが椎間板ヘルニアです。カルシウム不足など食生活も影響します。
腰部脊柱管狭窄は背骨の内部に起きるトラブルです。
背骨の内側には、神経が通るための「脊柱管」という隙間があります。老化などによって腰のあたりの脊柱管が狭くなり、神経が圧迫される状態を腰部脊柱管狭窄と呼ぶのです。
この他、すべり症、背骨や骨盤の腫瘍も坐骨神経痛の原因となります。
すべり症とは、腰椎の一部がずれてしまう症状。アスリートなど特定の部位を酷使する方に見受けられます。スポーツ習慣がなくても、閉経時の女性に発症することがあります。
発症例はさほど多くありませんが、背骨や子宮の腫瘍が神経を圧迫しているケースも存在します。
■坐骨神経痛の症状
太ももの裏側だけでなく、腰から下半身にかけて広く症状があらわれます。
鋭い痛みから、しびれ、張り、冷感や熱感など症状は多岐にわたり、特定の部位に集中する方、下半身全般にあらわれる方と、症状の出方にも個人差があります。
痛みの持続時間にも差があります。四六時中痛みに悩まされている方、少し歩き始めたところから痛みが出る方、突発的に痛みが走る方とさまざま。安静にしていても常に痛みがおさまらないという方もいます。
坐骨神経痛は神経の圧迫によってもたらされるものですが、神経や骨、筋肉に異常が見当たらないのに、身体の痛みに悩まされている方がたくさんいます。
■心の病気でも肉体の痛みは起きる
うつ病や心の問題によっても肉体の痛みは引き起こされるのです。
うつ病は脳内物質のバランスが乱れることによって引き起こされる疾病です。そのため、「心の病気」と表現すると誤解を招いてしまいがちです(事実、「甘え」「心が弱いから」といった、うつ病に対する偏見はいまだ根強いものがあります)。しかし、ここでは神経や筋肉の異常ではないという意味合いで、あえて「心のトラブル」としてまとめることにします。
■心のトラブルによる痛みとは?
「腰痛の原因はうつ病にある」とさえ言い切る医師さえいます。それほど痛みとうつ病には密接な関係があるのです。
うつ病と言うと多くの方は、気分の落ち込みや不眠、食欲不振といった事柄を想像するでしょう。実際その通りなのですが、患者さんの中には身体のあちこちに痛みを訴える方もいるのです。検査を行っても、整形外科的には何の異常も発見できません。
うつ病にはまだまだ未解明の部分も多く、脳内物質の働きがどう痛みにつながるのかはよく分かっていません。しかし、長引く太もも裏の痛みが、うつに起因していたという可能性もあるのです。
痛み以外の症状を併発していることが多いので、ネット上のチェックシートで確かめてみましょう。数多くのまとめサイトで紹介されていますが、ここでは厚生労働省のURLをご紹介します。
◯うつ病チェックシート
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/02.pdf
うつ病のように医学的エビデンスは確立されていないものの、ニューヨーク大学医学部教授のジョン・E・サーノ博士の提唱する「TMS理論」も興味深い考え方です。
腰痛や関節痛、肩こりといった症状は、「抑圧」「怒り」が原因になっているというもの。不安定な感情に対応するために、身体・精神が防御反応として痛みを引き起こしていると、サーノ博士は考えているのです。今後の研究が待たれるところですが、整形外科的な所見のない痛みに対する、ひとつのアプローチではないでしょうか。
筋肉痛ではないときの対処法
■坐骨神経痛の対処法
筋肉痛とは異なり、休養して時間が経過しても痛みは軽減されません。
自己判断による治療も避けましょう。特に冷湿布は患部の筋肉を緊張させ、より痛みを悪化させてしまうこともあります。ます整形外科、神経科など専門の医療機関を受診しましょう。
痛みの出方が多岐にわたるため、治療法も様々です。多くはまず痛みの緩和のため、鎮痛剤を処方されます。非ステロイドの内服薬がほとんどですが、激痛を訴えている場合は座薬が処方されることもあります。
鎮痛剤の中でも効き目の早い「消炎鎮痛剤」と呼ばれるものは、血流を阻害してしまうデメリットがあります。あくまで一時的な痛みの緩和を目指すもので、長期治療に向けたものではありません。
逆に血流をよくすることで痛みの緩和を目指す治療薬もあります。筋肉の緊張によって神経が圧迫されるケースでは、筋緊張弛緩薬が処方されます。
鎮痛剤の処方によっても、なお激しい痛みが引かない場合は「神経ブロック注射」を施すこともあります。患部の神経や、神経に近い部分に局所麻酔を打ち、神経を文字通り「ブロック」してしまうのです。
硬膜外ブロック注射、神経根ブロック注射、椎間板内ステロイド注射など神経ブロック注射には多くの種類があります。共通するのは、あくまで一時的に痛みを抑えるだけの治療であること。坐骨神経痛の抜本的な解決法ではありません。
このため、漢方薬や鍼灸を試す方もいます。効果には個人差があるため、これらも痛みの解消を保証するものではありません。根本的な原因が神経の圧迫にあるからです。
ですが、症状改善をあきらめることはありません。我流のストレッチやマッサージは禁物ですが、医師の指導を受けながら生活習慣を変えることで、痛みを軽減することもできるのです。
ダイエットもそのひとつ。腰椎にかかる負担を減らすため、食習慣を見直し、軽い運動を継続します。特に膝や腰の痛みはダイエットで軽減されることが少なくありません。
■心のトラブルによる痛みの対処法
うつ病もまた自然治癒を待つだけでは回復しない疾病です。上でご紹介したチェックシートに該当するようなら、心療内科の受診をおすすめします。
心療内科は身体症状全般に対応しています。いきなり抗うつ剤を処方されるわけではなく、まず痛みの原因はどこにあるのかをチェックすることから始めます。必要であればMRIなどの検査も受けることになります。
うつ病と診断されても、すぐに抗うつ剤を投与されるわけではありません。軽度の場合は認知療法、食事療法といったアプローチで改善を目指します。症状にもよりますが、外に出て太陽の光を浴びるといったことも大切な治療法になるのです。
第一に休息をすすめられることもあります。無理に外出して気分転換をする必要はありません。家の中で横になっていたり、音楽を聴いているだけでもかまわないのです。心身をゆっくり休めると、身体的な痛みも改善されてくる可能性があります。
まとめ
・ハムストリングは「大腿ニ頭筋」「半腱様筋」「半膜様筋」という3つの筋肉の集合体です。
・座り仕事だったり、運動習慣のない方はハムストリングの柔軟性が失われがち。ちょっとしたことで筋肉痛を起こすことがあります。
・痛みが起きる前にも後にもストレッチが大切。ハムストリングをよく伸ばしてあげましょう。
・太もも裏を中心とした下半身の痛みは、坐骨神経痛が原因になっていることもあります。
・坐骨神経痛の痛みは突発的に起こる激痛から、昼夜問わず持続する痛みまで様々。発症部位も多岐にわたります。
・うつ病によって身体の痛みが引き起こされることもあります。うつ病のチェックシートに該当したら、心療内科や精神科をたずねてみてもよいでしょう。
・心療内科は身体全般のトラブルを扱っています。原因不明な太もも裏の痛みも診察に応じてもらえます。
トレーナーとして活動しています。ダイエットやトレーニング方法についてお伝えします。